MISSION|もっと「語れる」世界を実現する
世界は複雑で不親切です。始めるときには誰もルールを説明してくれなかったし、そもそも「参加する」ことを自分の意思で決めた覚えもありません。いつの間にか参加させられて、知らないルールで損をして、何を目指して遊べばいいのかすらわからないこの「社会」というゲームは遊びづらくって仕様がありません。やる気をなくしてコントローラーを投げる人がいるのだって至極当然だと思います。
ところでこの世には、「裏面」とでも呼ぶべきもうひとつの世界が存在します。「はじまり」と「おわり」があって、もしルールがあればきちんと教えてもらえて、たまに感情を揺さぶれることがあったりするような、望ましくも愛おしいもうひとつの現実です。この世界の入り口を見つけたことは私の人生で最も素晴らしい出会いの一つでした。ところで最近気づいたところでは、どうもこの「出会い」は多くの方がどこかのタイミングで、何らかの形で経験するらしいのですが、私自身は、その世界との「出会い」を2回経験しました。1回目は高校に進学して「演劇」を始めたこと。2回目は大学に進学し、ちょうどコロナ禍であらゆる演劇活動が自粛されていた折、「TRPG」を始めたことです。
その世界とはもちろん「物語」のことです。それはいつも我々の傍にあって、語られていない間はひっそりとこっちを見つめて、ひらかれる瞬間を待ちわびています。その世界と2回目に出会ったとき、TRPGというゲームを通して垣間見た物語の世界は、これまで演劇や他のメディアで触れ合ってきた物語とは全く違うように感じられました。コロナの蔓延によるリモート生活や、大学進学による人間関係の変化の中で孤立と断絶に苦しんでいた私には、TRPGを介して他者と虚構を語り合う時間はあまりにも尊く、これ以上ないほどに世界と「つながっている」と感じさせるものでした。TRPGを「遊ぶ」ことでなら、社会に参加することが「できる」という発見と感動、その瞬間に体を貫いた熱こそが、今の私を動かす原動力となっています。
どうしてそんなことがありうるでしょうか?この世の数多の物語があふれ、数多の形式で体験できるようになっている中で、TRPGだけが何らか「特別」だなんてことがあるのでしょうか?私はその答えを持ちませんが、TRPGというコンテンツが持つ特徴を列挙することならできます。まずは、1). 物語外部の社会的な立場・能力が内部のパワーバランスに影響を及ぼさず、虚構を共に形成する参与者には概ね対等なパワーが担保されるという「① 対等性・対称性」、そして2). 虚構の中で起こったいかなる出来事も現実と物理的に断絶しており、われわれの生命に直接的な影響をもたらさない(全財産を失っても、最愛の人が死んでも、世界が滅んでも!)という「② 安全性・断絶性」、しかし同時に3). そこには共に虚構を囲む相手として、筋書きを持たずに自由意志で行動する「生身の他者」が存在するという「③ 社会性・現実性」です。とくに3つ目に挙げた「社会性・現実性」は演劇との大きな違いで、同時に多くの物語媒体からTRPGを差別化している重要な特徴です。
現実よりも少しだけ親切で、演劇よりも社会に近くて、何よりも安全。それが私が心から愛する「遊び」であり、「語り」であり、「TRPG」と呼ばれるものです。
いまは「TRPG」と名が付いているこの遊びは、まだまだマイナーな1ジャンルの枠に収まっています。しかし、現実によく似たこのゲームが、もっと整備されたルールを確立して、もっと多くの人が納得してくれる楽しさと興奮をその身に宿して、もっと当たり前にそこらじゅうで巻き起こるようになったなら。誰もがお茶をするように、歌を歌うように、散歩でもするように当然に「ここではないどこか」の話を、「私ではない誰か」のことを語るようになったなら。「嘘で遊ぶ」というその営みが、自然な動作として社会と、生活に、溶け込んでいったなら。
そんな世界は、今よりはもうちょっとだけ、生きやすいのではないでしょうか。
VISION|伝道者であり、翻訳者であり、求道者であれ
誰もが「語る」ことのできる世界を目指し、その実現のために三つの役割を全うします。
1. 布教・伝道の専門家として、「語り」への開かれた入口となる。
まだ虚構を物語ることに慣れていない方、あるいはその魅力を知らない方々に向けて、「語り」の楽しさと奥深さを伝える存在であり続けます。TRPGを始めとした「語り」の体験が、特定の人々の間だけで消費されることなく、新たな参与者を絶えず引き込み続けることで、「語り」の文化が社会に広く普及していくことを目指します。私たちは、一人ひとりの「はじめまして」を大切にし、その扉を常に開いていきます。
2. 「語り」をとりまく多様な人々を繋ぐ翻訳者として、その折衝地点となる。
「語り」の世界は広大で、未経験者から既存・古参プレイヤーまで、またシステムやシナリオの傾向に至るまで、多様な価値観が存在します。私たちは、そのあらゆる意見や背景を持つ人々を排除せず、誰もが安心して「とりあえず遊べる」ものを提供することを目指します。遊び方の言語的な説明や、コンテクストの丁寧な共有を決して怠らず、異なる視点を持つ人々が互いを理解し、共に「語る」ことができる、安全で開かれた場所を創出します。
3. 常に新たな「語り」の形を模索し、提案する求道者である。
現状に甘んじることなく、常に「語り」の未開拓な可能性を追求する求道者であり続けます。既存の活動者や発信者と同じアプローチをするのではなく、大きな発信力や影響力を持たない今だからこそ、誰もやっていないこと、誰も作っていないものを生み出すことに意義を見出します。「語り」の表現形式や体験の在り方を深く探求し、その新たな地平を開拓することで、「もっと『語れる』世界」の実現へと貢献していきます。
VALUE|汎用し、没頭し、再現する。
日々のクリエイションにおいて三つの価値基準を大切にします。
1. 「誰でも楽しめる」ゲーム構造を提供する
常に、誰かにとっての「はじめてのTRPG」となるために作品を制作します。複雑なルールや専門知識に囚われず、誰もが気軽に、そして心から楽しめるゲーム構造を追求することで、「語り」の世界への間口を最大限に広げます。
2. フィクションに没頭できる物語体験を提供する
ゲーム性に偏重することに警鐘を鳴らし、参加者が物語に深く没入できる体験を最大限に優先します。ゲーム要素は、あくまで「物語体験を成立させるための最低限」に留め、参加者が虚構の世界に心ゆくまで浸り、感情を揺さぶられるような、本質的な「語り」の体験を創造します。
3. 言語化された知見と構造に基づいてクリエイションを行う
制作プロセスの再現性と移転可能性を重視します。暗黙知や属人的なノウハウに頼ることなく、これまで定式化されてこなかった領域に切り込み、具体的な方法論を確立する努力を続け、持続可能で広く共有可能な活動を実現します。